▪️蛸壺が絡まり両舷プロペラ破損
2024年の春夏クルーズの復航で巡った雲仙有明海(口之津港)で、蛸壺ロープに引っ掛かり左舷、右舷両プロペラを破損させてしまった。しばらくは、太いロープも中々切れず、蛸壺全体を引っ張る形で航行、マックス8ktの船速で次の目的地となる「宇土マリーナ」(熊本県)と連絡を取りながら航行した。有明海は20mぐらい浅水深の海域なので、蛸壺自体が海底に引っ掛かって取れてしまったのか、蛸壺自体をロープごとペラで巻き上げてしまったのか今となっては想像するしかないが、ガツンというショックの後は振動を伴うが15ktぐらいまでには増速出来るようになった。
「宇土マリーナ」(熊本)でそのまま上架。主に左に絡まっていた太いロープを外し、曲がったペラ翼を鉄アレーを当てながらハンマーで叩いて応急修理した。ここまでは下記に添付した記事の要約である。(添付記事参照)
今日の記事は「雑感」カテゴリーとなる。主にメンテナンス、修理記録を記載している。その後の修理顛末として読者各位と共有させて頂きたい。
▪️両舷ペラを新規に「ナカシマプロペラ」に発注
修理対応は、船舶用プロペラで日本、世界トップのシェアの「ナカシマプロペラ」(岡山)に依頼した。事前に現物を送り、チェックしてもらった。同社からの回答は、「翼端のみ曲がってしまったペラ、あるいは翼端のみのわずかな欠けであれば修理が可能ですが、左舷ペラの破損レベルは2箇所。うち1箇所は欠損度合いが大きく、さらに相当な力がかかったと思われ、翼自体の曲がり方も根元にまで及んでいる。よって修理は不可能。一方、右舷ペラの方は翼端部分の曲がりのみなので修理が可能です」というものであった。下掲載写真の赤丸印A部分は翼端部分の欠損。B部分の赤丸程度なら修理可能だそうだ。幸い右ペラはこのレベルの翼端曲がりだった。こうして左舷ペラは修理再生不可能ということがはっきりした。しかし、これには後日談がある。この不要となったペラを「金属回収業者」に持ち込むと、お金になることが分かった。引き取り業者を知っている僚艇オーナーに「売った金で一席設けますよ」と現在お願いしてある。
▪️左舷ペラ交換、右舷ペラ修理としたが…
こうした助言を受けて、一旦は左舷ペラは交換、右舷ペラは修理と思ったが、「右ペラを修理しても、ペラも経年劣化するので、仕様が同じでも同じ性能とはならない。つまりは両方セットで新らしくした方が良いというのである。「ポーナム-35」のペラはいわゆる高速ペラである。これは30kt以上に対応するもので、キャビテーションを抑えるため4枚翼の根元に穴が空いている。「回転数が同じでも、左右推力に違いが出ると船進路が曲がってしまう可能性を否定できない」(ナカシマプロペラ談)の追加アドバイスが気になった。そうなると高速時は左右シンクロモード操船ではコースが傾いてしまい、左右別々に回転数を調整して走行することになる。これは厄介である。そこで「左右ペラともに新たに製作、修理したトヨタ純正ペラは予備として今後に備える」ことに方針変更した。もう一つの大きな理由は、メーカーのトヨタマリン社から「ペラの在庫は無く、純正品は欧州メーカーからの取り寄せになり、価格と期間は発注してみないとわからない」という回答があったためである。価格が時価!高級寿司屋のようである。
この際、ロングクルーズ中心のHAPPYなので、予備ペラを持っておくのもリスクヘッジになると自分に言い聞かせて2枚とも交換することに決めた。
▪️さすが、「ナカシマプロペラ」修理のレベルも凄い
上記写真は完全修理を終えた右舷のペラである。普段はしみじみ見ることが少ないペラだが、こうして磨き上げられると何やら芸術作品のような感じがする。ペラ翼の根元に開けられた穴は回転時に発生するキャビテーションを防止するためのものであることは述べたが、この穴あけがノウハウ、よってその性能品質を盾に「ナカシマプロペラ」の高速ペラは高いのだそうだ。確かにマリーナを見回すと低速ペラを使うヨット、漁船タイプの艇に付いているペラには穴は空いていなかった。修理に要した期間は40日、新規製作と同じであった。これは同社のベトナム工場が任にあたるためである。この修理費用はおおよそ20万、想定より10万超安価だったが、「これは同時に2枚のペラ製作を発注したための割引があったため」(マリーナスタッフ談)
▪️新規の高速ペラは一枚140万、しかし2枚頼んでの値引交渉は果たせず
上写真は今回左右に新たにセットされた「ナカシマプロペラ」社製の高速プロペラ。実に美しい。早速、テスト走行したが、「オイル交換したてのスポーツカー」のような感覚で、エンジン回転の上がり方がスーッと滑らか、平水だったので途中一呼吸入れるまもなくスムーズに加速した。アクセルが軽くなった感じでもある。スピードはまだ試していないが、これまでのやっとこさの35ktではなく、軽い感じで届くと思った。
因みに、製作期間は修理と同じ理由で40日、費用は2枚合計でおおよそ280万であった。ペラはJCIの検査対象のようで、検査費用の請求もあったし、ペラには検査済みの刻印があった。昨今、円安を理由に金属材料、部品からジンク亜鉛までものすごい価格上昇が起こっている。よって覚悟はしていたが、他のメンテ請求もふくめ感覚的にはなんでも5割増しといった印象を持った。新規ペラ製作の方は、修理と違って値引きは一切なかった。2枚セットで依頼したからといって、割引にはならないようである。説明によれば、高速ペラは量産品ではなく特注品だからだそうだ。実際に「ユーチューブ」でその製作過程を見たが、大変に手間のかかる製作工程だった。あれを見てしまっては「2枚セット割引」を交渉するのは、野暮というものであろう。値引きをお願いした自分が恥ずかしかった。