ボートで行くクルージング三昧

ホームポートを瀬戸内海(仁尾マリーナ)に移してクルージングを楽しんでます

2021年春クルーズ(隠岐島・舞鶴)5月25日浜田「浜田漁港」緊急事態が発生し入港

6日目:前の晩に「Windy」をチェックすると、明日は11時以降から南西の風が強まり8mになると予報されていたので、それまでに到着するため早朝の出港を決めていた。この事がこれから起こるアクシデントを最小限に抑える事になると、この時はまだ知るよしもなかった。

本日は朝5時に起床し、1番に各予報サイトをチェックすると「海の安全情報」(海上保安庁)サイトに強風波浪注意報が出ていた。風が出るまでのこれからの5時間で一気に「温泉津」(70マイル)まで艇を進めようと考え、5時50分に「萩漁港」を出港した。出港時は想定通りの海況で順調に25ktを保ち、2時間で浜田港近くまで来ていた。が、その時突然「ピィー」っとPONAMの警告音が鳴り、操作スクリーンには「右フラップ制御油量に異常あり」との警告が表示されていた。と同時に、オートフラップが効かなくなった。すぐにオートフラップからマニュアル操作に切り替えようと、切り替えボタンを押しても反応がなく、マニュアル操作に切り替わらない。フラップが効かないため、艇は右に傾いたまま戻らない状態である。そこで、「温泉津」は断念して急遽、途中寄港可能地として想定していた「浜田港」に緊急入港することにした。ちなみに、「浜田港」は西日本屈指の規模を誇る大きな漁港である。サポート体制が整っていると判断して、今回クルーズの避難港の一つとしてマークしていた。

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当初Googleで探しておいた係船場所に仮止めをして、急いでJF島根浜田支所に電話を入れた。その際、「世話役としてN氏がいくので、具体的な指示は彼から受けてください」と言われた。彼を待っている間に、オートフラップ制御油圧バルブのある発電機室を開け、確認してみたのが下記の写真である。赤い水が一面に溜まっていた(血の海の様)ため、急いでトヨタマリンのO氏と同じく整備担当のM氏、「仁尾マリーナ」で実際に整備をしているO氏達と電話のやり取りおこなって原因の特定を進めた。この赤い色のオイルはフラップの制御用オイルで、どこからか漏れているとの結論に達した。

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次に、漏れている箇所を把握し、修理もしくは部品の交換を行わないといけない。浜田港には艇を停めている場所から少し離れるが、浜田マリーンというマリーナがあり、多少の整備もできるような記載がホームページにあったので、早速電話してみた。しかし「当マリーナでは、ディーゼルは触らない事を原則にしております。停められている近くにヤンマー舶用という会社があるので、そちらに相談されてはいかがでしょうか?」と丁寧にお断りをいただいた。

調べてみると、艇を繋いでいる目と鼻の先にヤンマー舶用社があり、電話をかけてみると女性が電話に出られて、「木曜日まで社内の整備担当全員で地方出張整備に出かけていて、今私1人しかいなんです」と申し訳なさそうに答えてくれた。

この時点で、これは長期戦になるかもしれないと、半ば諦めかけていたところに「世話役N氏」が現れるのである。その奮闘記は後程…。このN氏が地元のネットワークを駆使して、あらゆるリソースを電話一本で集め、一気にあらゆる事が解決していった。緊急入港事態からの潮目が一気に変わってきたのである。

N氏がやってきて、仮止めしていた場所にこのまま停めていて良いとの回答をまずは得た。(水深は干潮時3m、幾重もの防波堤に守られ内面は南西10m超でも小波程度であった)だだし、南西の風が強く吹く時はフェンダーがしっかりとしていなければダメである。トイレは、この場所から徒歩5分の公園内にある。和式だがよく清掃されていた。また水は、N氏の了解で、目の前にある水道を自由に使わせてもらえることになった。

N氏と少し世間話をしていると、N氏は、浜田に生まれ、浜田で育ち、中学を卒業してから84歳になるまで、ずっと漁師で、今も現役とのこと。困ったことがあったら、相談しなさいよというお言葉をくれた。その言葉に甘え、「実は、、、とフラップの制御オイルが漏れていて、、、ヤンマーさんの整備の方も木曜までいないんですよね、、、」と世間話のように軽く話した所、「ちょっと待っとけ」とすぐにスマホを操作して「ちょっと来てくれるかー?」と誰かを呼んだ。聞くと、ヤンマー舶用のOBで現在は独立して整備をしている方を呼んでくれたとのこと。こんな嬉しいことがあるものかと感動していると、N氏が「燃料はどうするのか?」と聞いてくれたので、「軽油250Lほど入れたいと思っています」と回答が終わらぬ間にスマホを操作し、「軽油配達お願いできるか?」とすぐさまに手配してくれた。船の不具合で気持ちが少し下がっていたのだが、こんな対応してもらうと気分が大いに上がってきた。

まず先に到着したのは、軽油トラック(株式会社浜昭)が2名できてくれた。すぐに250L(累積1,350L)を免税で入れてもらい、次にフラップ制御オイルとして車に利用するトルクコントロールオイル(通称トルコンオイル)を4L手配して欲しいとお願いすると、一旦会社に戻ってすぐにまた来ますと言い残して戻っていった。

そして入れ替わりで現れたのが、ヤンマー舶用のOBであるF氏。状況を説明し、発電機室内を見てもらった。最初は、トヨタの船は私にとっては外車と同じ」と言って、ヤンマーエンジン一辺倒のF氏は少し逃げ腰であったのだが、世話役N氏からもお願いされたこともあり、すぐに期待通りの対応をしてくれた。F氏は発電機室内を専用の液晶ライトで照らしながら確認し、オイルの漏れている箇所が左右にある姿勢制御フラップをコントロールする油圧オイルのチューブが経年劣化で裂けていると特定した。(写真参照)

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裂けたチューブを見て、「このチューブなら代用品が事務所に有ると思う」とF氏が事務所に取りに戻ると、続いて、一旦会社に戻っていた軽油トラックの2名が戻ってきた。「トルコンオイル4Lです」と缶を手渡してくれ、「いくらですか?」と聞くと、「私らも会社になかったから、もらってきたオイルやからお金はいらん」との回答。オイル手配に奔走してもらったのにそれでは申し訳ないと押し問答をした挙句、長期クルーズの際には、常に積み込んでいる「菓子折り」(今回は10個)を受け取ってもらうことで、ひと段落。今回のクルーズでも菓子折りは大活躍である。クルーズ最後まで足りるか少々気になってきた。
そんなやり取りをしていると、F氏がチューブ片手に戻ってきて、すぐにチューブを付け替えてくれ、2人が持ってきてくれたオイルを注入して、修理と動作確認が完了した。修理完了時は大いにみんなで盛り上がり、私もようやくホッとした。
それぞれが帰宅し、世話役N氏が帰宅する際に、「日帰り温泉はこのあたりにはないですよね?」と聞いたとことろ、「わしがいつも行っている温泉があるので、一緒に行こう!15時に迎えに来る」と言い残し去っていった。この時点で12時。海はまだ荒れていない。

15時に迎えにきてもらうまでに、散らかっているアフトデッキや室内を片付けていると13時ごろには風速10m超の南西の風が吹いてきた。慌ててロープを貼り直し、フェンダーを総動員した(10個)。今回の長期クルーズに供え、新たに導入していた涙滴フェンダーも初めて使った。涙滴フェンダーのおかげか、艇内の揺れはさほどひどくない。

世話役N氏と一緒に訪れた温泉は「有福温泉」である。車で約20分もかかる場所に連れていってくれた。「有福温泉」は、聖徳太子の時代に山岳修行僧が山奥で発見した温泉だそうで、歴史は相当に長い温泉のようである。本当にいいお湯であった。化粧水の中に使っている様な感覚、少しぬるっとする弱アルカリ源泉掛け流しの無味無臭のお湯である。ここまでのクルーズでは、コロナの事もあり、船内シャワーでずっと済ましていたので、久しぶりの湯船に浸かり、自分が思っていた以上に疲れていた事も実感、しかし、この湯で身がほぐれた気がした。

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 明日は、「温泉津」(ゆのつ)に行く。20マイルの短い航程だが、その地にある「薬師湯」を楽しみにしている